<strong>1.月刊誌デジタル版のみ発行への移行</strong>
最近のことですが、某業界の月刊誌2誌がデジタル化を推進するというお知らせが舞い込んできました。両誌ともに「原則としてデジタル版への一本化」という趣旨のようで、詳細は以下の通りです。
(1)甲誌
・紙媒体の停止時期: 令和9(2027)年3月号で紙媒体の送付を終了し、4月号から原則デジタルブックへ完全移行します。
・直近(令和8年度)の動き: 令和8(2026)年10月号からデジタルブックの仮運用を開始します。
・経過措置(希望者への紙送付): 令和9年度発行分に限り、令和8(2026)年6月15日~12月31日の期間内に会員専用ページ(またはFAX)から「紙媒体の送付申込み」を行えば、経過措置として紙での送付が継続されます。ただし、令和10年度以降の取扱いは未定(利用状況等を見て検討)となっています。
(2)乙誌
・紙媒体の停止時期: 令和9(2027)年度中にデジタル版のみの発行へ移行し、原則として紙媒体の送付を終了します。
・直近(令和8年度)の動き: 令和8(2026)年5月から、会員サイトで紙媒体の送付停止の先行受付を開始しています。令和8年度中は、会員が自ら郵送停止申請を行わない限り、紙媒体の送付は継続されます。
<strong>2.原則デジタル化が置き去りにするもの</strong>
原則デジタル化ということの言い分ですが、まず「印刷・製本・発送費の節減」や「環境負荷の低減」を大義名分としてあげており、これはこれで大変立派なことだと思います。しかし、それはあくまで発行する側のコストカットの論理です。「購読者ファースト」の視点から見れば、これまで購読費を払って当たり前に受け取っていたサービス(情報提供)の質が下げられたとも受け取れる事象です。「スマホやPCから外出先でも読める」「アプリ不要」をメリットとして謳っていますが、それはものごころついたときからゲーム機器で遊び、日常的にデバイスを使いこなす世代の基準です。「ブラウザを開いて、会員サイトにアクセスし、ログインしてデジタルブックを開く」という一連のステップ自体が、高齢読者にとっては非常に高いハードル(デジタルデバイド)になり得るとも懸念されます。
「キーワード検索で過去の記事を探せる」のは確かに便利ですが、紙の雑誌の最大の強みは「パラパラとめくっていて、たまたま目に入った法改正情報に氣付く」という一覧性にあります。デジタル化によって「自ら検索して辿り着かないと読まない媒体」になれば、重要な法改正や通知の見落としリスクを高めることにもつながりかねません。
また、乙誌では、各種のお知らせや同封チラシの郵送も完全に停止されます。これらがウェブに埋もれることで、高齢購読者が地域の活動情報にアクセスしづらくなり、界隈での孤立を深めるとの懸念もあげられます。
先般、労働安全衛生法の改正(令和8年4月1日適用)により、事業主には「高年齢者の特性に配慮した作業環境の改善や作業管理などの措置」を講じることが努力義務化されたとのことです。紙媒体の完全廃止は、果たして当該法律改正の趣旨に照らして妥当なところなのか疑問符が付く氣がいたします。
<strong>3.北欧における紙の教科書への回帰事例</strong>
少々次元が違う事例かもしれませんが、教育のデジタル化で世界をリードしていた北欧のスウェーデンでは、「極端なデジタル化のデメリット」が顕著になった結果、国を挙げて「紙の教科書への回帰」へと方針転換しているという話もあります。
(1)具体的な背景と動き
スウェーデンでは2010年代以降、幼児教育から小中学校にいたるまで、タブレット端末やPCを1人1台配布し、紙の教科書を原則廃止するなど、徹底的なデジタル教育を進めていました。しかし、数年が経過した結果、以下のような深刻な弊害がデータとして現れました。
・国際的な読解力調査(PIRLSやPISAなど)において、スウェーデンの子どもの読解力や基礎学力の低下が判明した。
・バックライトのある画面(スクリーン)を長時間見続けることで、注意力の散漫、集中力の持続困難、記憶や深い理解の定着率の悪化が指摘された。
・手書き(鉛筆での記述)の機会が激減し、批判的思考力や自ら考える力が弱まった。
(2)政府の対応(2023年~現在)
当時の学校担当大臣であったロッタ・エドホルム氏は、これまでの教育デジタル化を「科学的根拠に基づかない実験だった」と厳しい見解を公表しました。スウェーデン政府は方針を180度転換し、すべての児童・生徒に全科目の紙の教科書を行き渡らせるため、総額10億クローナ以上(国際的な報道では約1億ユーロ、日本円で約160億円規模)という巨額の国家予算を投じて、紙の本を買い戻し、アナログな学習を復活させています。
