エウレカ徒然備忘録

時事報道への感想を中心に、ときにアニメDVDを使った英語学習法などを徒然書いています

核分裂及び核融合

今朝、「国連本部で開催中の核拡散防止条約(NPT)再検討会議で核軍縮及び核不拡散の進め方などに関する最終文書を全会一致で採択した。NPT再検討会議は5年おきに開かれ、最終文書を採択するのは2000年以来、10年ぶり。」という報道を見聞きしました。

ところで、頻繁に見かける用語ながら、核に関する用語の意味するところは正確に把握していなかったので、解説記事の一部を紹介します。

「数学者のエッセイ 病める科学」(渡部由輝)より

近年においても、さらに重大な科学者による“事実誤認”が発生している。「常温核融合事件」という。

化学的意味において物質の最小的単位である原子は、すべて強力なエネルギーを秘めている。そのエネルギーを取り出す方法は二種類ある。核分裂核融合である。前者は原子の中心にある核部(原子核という)に中性子を衝突させることによって起こる。それによって核分裂反応が連鎖的に発生し、原子爆弾に至る。その反応をゆるやかにさせたのが原子力発電である。原子核内の中性子や陽子の数が多いほど分裂のさいの威力が大きく、また分裂反応も起こりやすいから、核分裂には通常、自然界に存在する物質の中では最も多くの中性子・陽子を有するウランを用いる。

一方、核融合の方は原子核内の中性子や陽子に外部から別の中性子を「融合」させる、つまりくっつけることである。そのさいほんの少量の、重さにして0.7パーセントほどの質量が欠損する。その失われた質量がアインシュタイン特殊相対性理論、俗にいう質量とエネルギーの等価に関する法則の定めるところにより、強力なエネルギーに一変する。それは核分裂反応の数倍という強力なものである。太陽の原理がこれである。すなわち太陽とは、常時核融合反応を起こしている巨大なガスのかたまりなのである。

そのような核融合反応は原子核内にすき間があるほどうまくいくから、中性子や陽子が最も少ない元素である水素(陽子一個しかない)を用いる。早いはなし、水を原料とするだけでウランによる原子爆弾や現在行われている原子力発電よりも、はるかに強大なエネルギーを取り出せるのである。ウランは石油など化石燃料より早く枯渇するかもしれないといわれる限られた資源であるのに対し、水ならば無尽蔵である。人類にとって夢の燃料、究極のエネルギー源といってよい。

ただ、その開発には重大な障害がある。太陽の例でもわかるように、核融合反応を起こさせるにはきわめて高温・高圧を必要とする。温度だけでも一億度以上なければうまく融合しない、といわれている。それほどの高温を一瞬だけならともかく、安定して長時間出せる装置はまだ開発されていない。技術的にもコスト的にも、今世紀中には無理ではないかといわれている。第一、地球上のすべての物質はせいぜい四千度で溶けてしまうのに、それほどの高温をどうやって閉じ込めておくのか、実際は渦巻き状の高温ガスにして、電極の周囲を高速で回転させて保存するようにするが、それにしても巨大な設備を必要とする。というわけで核融合による原子力エネルギーの開発は、地球上ではいまだかって行われたことはなかった。

ところが一九八九年三月、アメリカのユタ州立大学の研究グループが、それに成功したと発表したのである。しかもそれには超高温など必要とせず、常温の実験室で簡単な装置を使ってでき、さらに有害な放射線は出ない、とつけ加えたのである。それが事実なら人類史上最大級の大発見であり大発明である。世界のエネルギー問題など一挙に解決する。各国のメディアというメディアが争って報ずるほどの大ニュースになった。

もちろん、原子核物理学の常識からしてそのようなことなどありえない。常温、つまりわれわれがその中でふつうに生活できるていどの温度、せいぜい摂氏十度〜三十度くらいで核融合が発生するとなると大変だ。ただの水が何かの拍子で原爆以上の大爆発を起こすかもしれないのである。危なくってわれわれはこの地球上でおちおち住んでなどいられない。世界的原子核物理学者の一人であるときの東大総長有馬朗人は、「常温核融合などありうるわけはない。もしそれが事実なら、自分は一切の公職を辞め、頭を丸めて坊主になる」と宣言したほどである。むろん、事実は有馬の言うとおりであった。根拠も実態もなにもない“想像上の発見”にすぎないものであった。

===引用終わり===

こんなことも知らずに、核拡散防止や原発といった時事報道を見聞きしてもほとんど意味がなかったかなと思ったのでありました。