エウレカ徒然備忘録

時事報道への感想を中心に、ときにアニメDVDを使った英語学習法などを徒然書いています

Globalizationと対峙しているもの

1.Globalization下の米国

 冷戦が米国の勝利で終わった後の1990年代、米国は民主党のClinton大統領の時代であり、IT革命を根拠にしたニューエコノミー論がもてはやされ、また、IT革命をネタに株価の急騰とそのことを主な拠りどころにした金融資本主義が絶頂を迎えました。規制緩和で行政からの経済活動への介入を極小化することを是とする新自由主義がもてはやされ、IT革命による通信技術の革新及び金融資本主義の強化から、もともと多国籍化の傾向を強く持っていた米国企業が利益の極大化を求めて国境を越えるGlobalization(=Global資本主義)の流れが鮮明になっていきました。

 ここに、多国籍企業がより労働力が廉価で調達でき、様々な規制もより緩い国に出て行ってしまう産業の空洞化が製造業を中心に加速し、米国企業が儲かることが、即ち米国の国益であり、米国民全体の収入が増加することとは必ずしも一致しないという現象が顕著になり始めます。英語を標準語としている米国の場合、空洞化は製造業にとどまらず、ある州が州民の照会に答える電話センターの行政サーヴィスを印度に移して問題になったというような極端な事例まで現れるようになりました。

 産業の空洞化に対して、時の労働長官を務めたRobert Reichは、「米国人がより高度な高等教育を受けて、高付加価値の産業に従事することによって克服する」として、教育の重要性を強調しました。教育は、確かに最重要の国家が注力すべき事柄ではありましたが、しかし、高付加価値化政策は、Reich自身が予言した格差の拡大を回避することがこれまでのところ出来ていません。むしろ、1990年代から格差拡大の問題を踏まえて登場したはずのObama大統領を擁する現在に至っても格差の拡大は続いています。

 その理由は、明らかで、そもそも米国のような人口3億人を超えるような大国で産業の空洞化が進む中、大多数の働き手が高付加価値の仕事に就けるはずがないからです。さらに怖ろしいいことには、IT技術の進歩により、低賃金でも高付加価値の仕事が出来る労働者が中国や印度などで大量に生まれ、米国の労働者は多くの分野でこれらの労働者との競争も余儀なくされています。


2.Global資本主義と対峙しているもの

 京大准教授の中野剛志先生によれば、Globalization、即ちGlobal資本主義と対峙しているもの、それは、各国の民主主義であるということになります。それはどういうことかというと、物及び役務の交易の自由化を進めるTPPやFTAのような協定は、条約であり、国内法に優越するということです。そして、条約の批准は、法律の立法措置に比べて容易に国会を通過できる仕組みになっています(註)。

 具体的には、民主主義の国会で制定された法律に基づいて施行されている排ガス規制が、自由貿易協定における非関税障壁に当たるとされて訴えられ、その争いに敗れた場合には、協定に合わせる形で法律を改悪したり、賠償金を支払ったりすることになります。即ち、自由貿易協定の自由度が高ければ高いほど、国民国家が自国民の健康を守るために制定した法律さえ、反故にしなければならない状況を生み出してしまうことを想定しておかなければならないということです。「遺伝子組み換え穀物使用の表示義務」又は「BSE対策で課している輸入規制」なども全てこの範疇です。

 Global資本主義は、民主主義に対する脅威そのものであって、「自由化」や「開国」といった美辞麗句で装飾してあったとしても、その本質を見誤ってはならないと思うのです。Globalizationの本家米国で起こっているWall街占拠事件もユーロ圏で起こっている財政危機もGlobal資本主義の行き着いた先での出来事であることに気付かなければなりません。

註)憲 法

第60条 予算は、さきに衆議院に提出しなければならない。
2 予算について、参議院衆議院と異なつた議決をした場合に、法律の定めるところにより、両議院の協議会を開いても意見が一致しないとき、又は参議院が、衆議院の可決した予算を受け取つた後、国会休会中の期間を除いて30日以内に、議決しないときは、衆議院の議決を国会の議決とする。

第61条 条約の締結に必要な国会の承認については、前条第2項の規定を準用する。