エウレカ徒然備忘録

時事報道への感想を中心に、ときにアニメDVDを使った英語学習法などを徒然書いています

「国家の罠」を読んで

露西亜から、国際情勢分析のMail Magazineを発行されている北野幸伯氏の書評に触発されて、この本を読んでみました。佐藤優氏は、同志社の大学院神学研究科を修了されて、外務省に専門職として入省。露西亜情報の専門家として、北方領土返還交渉など、対露外交に深く関わったが、鈴木宗男議員に関わる事件に関連して、2002年5月に逮捕され、起訴事実を全面否認、現在も係争中のようだ。

Googleで氏について検索してみると、この本に関しては、「鈴木宗男の虎の威を借りて、外務省を壟断していた佐藤優が自己弁護に見苦しい姿を晒している。」と言うような厳しい見方もあった。しかし、そういう点を差し引いても、面白い内容であったと思う。225頁の「実に不愉快だ。私は独房に戻ってから憤慨した。こういうことならば、黙秘よりも戦術をエスカレートさせて、独房に籠って取り調べ自体を拒否すると言う手もある。裸になって全身に糞を塗りたくってもよい。......翌土曜日の昼食、はじめて焼きたてのコッペパンがでた。マーガリンがついていて、おかずはクリームシチューに汁粉だ。実にうまい。これですっかり機嫌がよくなって、房籠もり、裸体戦術はやめることにした。」

同じく318頁「7月3日、私は独房で横になりながらアイスクリームの配達を楽しみにしていると、突然、独房の鍵が開いた。看守が『緊急の検事調べがある』と言う。......アイスクリームを食べそびれて残念だ。再逮捕されて拘置所に戻って来る頃には溶けてしまうだろうということが何よりも気にかかった。囚人心理とは不思議なもので、再逮捕と食べ物の比重が同じくらいなのである。幸いアイスクリームは看守が冷凍庫で保存していたので、再逮捕後、独房に戻ってからおいしくいただくことができた。これでかなり機嫌がよくなった。」

個人的には、この一見馬鹿みたいな記述に、氏の人柄を垣間見た気がした。ラスプーチンと呼ばれた男の本質は意外と単純で、健全だったのかもしれない。長く外国に住んだり、関わる仕事をしていて、その国に対する理解が深まれば深まるほど、その国に対する思い入れと日本に対する愛国心という感情が、訳の分からないほどに強くなってくる傾向にあるのではないかと想像する。佐藤氏の置かれた特殊な立場、特殊な背景は、十分注意して、鵜呑みにしないで読まなければならないのは、この書物に限ったことではないが、この人が言っていることの中にもそれなりの真実がある感じがしている。

鈴木宗男議員事件以後、経済政策のケインズ型公平配分政策からハイエク型傾斜配分政策への転換、外交政策における国際協調主義からナショナリズムの強化と言う見立ても、大局的に流れを見る際に参考になると思った。