エウレカ徒然備忘録

時事報道への感想を中心に、ときにアニメDVDを使った英語学習法などを徒然書いています

無駄の効用

TPP反対論の中野剛志氏の話を動画などで積極的に見るようになってから、中野氏が最近「無駄の効用」的な話を好んでされておられることに気が付きました。働き蟻の世界でも、実際働いているのは全体の2割、後の6割は適当にこなしていて、さぼっている働き蟻も2割くらいいると言う類の話です。

ところが人間社会は、近年とにかく無駄をなくさなければ世界競争には勝ち残れないという掛け声の下、カイゼンカイゼンでやってきました。この結果、生産活動、流通などにおける仕組みが、平常時でもぎりぎりの員数で運営されるのが常態と化しています。働かない蟻はもちろん、適当にこなしていた6割の下の方も合理化の名のもと人員整理の対象とされてきています。

中野氏らの議論だと、国土が平らかな上、地震が基本的には起こらない欧州諸国に比べ、山がちで地形が複雑で、かつ地震災害も多い我が国の場合、公共事業はそもそも欧米諸国に比べて割高になり易く、GDPに占める公共投資の割合を欧米並みの水準に持っていくのは、そもそも無理がるあるということになります。また、軍人も含めた公務員の人数は、欧米諸国に比べて元々少ないので、これをさらに減らすのは問題だというのです。

そして、今回の東北関東大震災の勃発です。過剰なまでの効率化の負の側面は、次のような事例をあげるまでもなく、浮き彫りにされました。

1.自動車産業を始めとする東北地方の被災地において生産されていた部品に依存する製造業は、部品調達が間に合わず、最終製品の生産を長期にわたり停止せざるを得なくなりました。

2.電力不足は、首都圏の公共交通の機能不全を招き、流通の混乱は地震の直接的な被害の少なかった首都圏においてさえ1箇月以上にわたる物資の不足を招きました。

3.自衛隊10万人を被災地の救援任務に当たらせたため、本来の国防が手薄となり、中露による周辺領域での活動を誘引しました。

4.民主党の事業仕訳は、スーパー堤防計画を無駄として切って捨てることにしていました。

逆に、適度に無駄の多い社会は、非常時には強いのかもしれません。日ごろのんびり業務を行って定時に帰っている効率化至上主義においては余剰とみなされるような人員を相当数助っ人として被災地の機能不全に陥っている役所などに送り込むことができるからです。

確かに、今後耐震化並びに複合的な交通網を整備すること及びその維持管理のための公共事業は必要不可欠なのでしょうが、公共事業の乗数効果は今後益々下がることになる上、税収の減少による財源不足が喫緊の課題になってくることが予想されます。しかし、特に世界標準化が喧伝されるようになってから、円高との二人三脚で、合理化、製造業の海外移転、及びデフレは同時並行的に進んできました。おそらくは、無駄の効用論の弊害よりも世界標準化の名の下に推進されてきた産業の空洞化(Uniqlo化)及びまともな雇用の海外輸出の弊害の方が、経済的にも社会的にもはるかに大きかったことは確かです。

我が国の指導者が何故「世界標準化を推し進めれば進めるほど、日本企業の利益が、単純に日本国の利益に直結していかなくなること」に気付かないのか、理解に苦しむところです。