エウレカ徒然備忘録

時事報道への感想を中心に、ときにアニメDVDを使った英語学習法などを徒然書いています

マルドゥック・スクランブルなど

 主要登場人物の名前が、バロット、ウフコック、Dr.Easter、Shell、Boildと玉子つながりのマルドゥック・スクランブル“Mardock Scramble”にこのところはまっています。

 主人公ルーン・バロットは、NYCを想起させる近未来の都市Mardock Cityの片隅でひっそりと生きる少女娼婦。彼女の悲惨な境遇は、ある日遂に窮まり、悪質な犯罪に巻き込まれて殺されかけますが、委任事件担当官であるウフコックとDr.Easterによって死の淵から救い出されるのでした。軍事技術の粋を集めた禁断の科学技術によって異能の力を身に付けて蘇ったバロットと禁断の軍事技術の開発者とその成果物であったために底知れぬ傷を負いながら前向きに生きようとするDr.とウフコック。マルドゥック・スクランブルは、それぞれ悲惨な過去を生きてきた三者の再生の物語です。

 冲方丁作品に接するのは、Robot Animeの「蒼穹のファフナー」、時代小説の「天地明察」に続いて3作目ですが、どれも好きな作品で、この作家の才能を高く評価しています。冲方作品に駄作なしという評価です。冲方作品の良さは挙げればきりがないのですが、第一に、この人は文章が練れています。文章の上手さというのは、才能と努力の産物であり、年齢や経験はそれ程関係ないことが分かります。そして最近気付いた第二の点は、冲方作品に描かれる「極めて悲惨な境遇とその中で前向きに生きようとする共同体なり、家族なりの描き方」です。これが実にきめ細かく、情け深く描かれていて感動的です。マルドゥック・スクランブルでは、Dr.と知能を持った金色のねずみウフコックに気遣われながら徐々成長していく15歳の少女の疑似家族のような心の交流が犯罪組織との戦いという縦糸にうまく織り込まれている感じがします。冲方作品にここまで魅了されるのは、おそらくそこに描かれている家族や共同体における構成員の心の持ち様が、小生自身理想的と思っている有り様に相当程度重なっているからなのでありましょう。

 そして、作品自体の創作としての面白さが群を抜いていることは言うまでもありません。冲方作品に駄作なしということで、今後も注目していきたい作家だと思います。