エウレカ徒然備忘録

時事報道への感想を中心に、ときにアニメDVDを使った英語学習法などを徒然書いています

菅首相の凄味

菅首相を首班とする現政権は、ここまで全くと言っていいほど成果を上げてはおらず、近隣国との外交において拭い難い汚点を残しており、今回の一連の大震災に対する対応も失策を繰り返し、指導力のなさを露呈しています。対応は遅れに遅れているため、被災者を始め一般国民からの信頼感も非常に低いものになっていることでしょう。菅首相に対する評価は、これまで「無能」の一言で片付けられてきた感があります。小生自身、菅首相の唯一の功績は、小沢内閣成立を阻止したことだと思っており、それ以上は最初から期待していませんでした。

しかし、ここにきて野党ばかりか与党内にさえ声高く退陣論が叫ばれる中、逆説的な意味合いで首相の凄味を感じるようになってきました。側近としてこれまで首相を支えてきた幹事長さえも、退陣を口にするようになっている状況です。身内からも見捨てられつつあり文字通り孤立無援になっても、絶対に自ら権力を手放さない強烈な執念は、過去数年間の首相たちとは全く次元を異にするものです。彼らは、参院選挙に少々負けたり、支持率が多少下がった程度の原因でやる気をなくしたり、健康を損なったりしたことを理由に簡単に政権を放り出してきました。潔いと言えばそうなのでしょうが、この程度の精神力で海千山千の外国の権力者と対等に戦っていくことができるとは到底考えられません。

ところがです。現首相は、自らの権力を維持するために、平気で身内をだまし討ちにしてのけました。いくら野党から失政の責任を問われようが、身内から詐欺師と罵られようが、蛙の面に何とかで意に介する様子もありません。これは、自ら退き際を知ることが美徳とされる普通の日本人の常識を完全に突き抜けてしまっています。普通の日本人政治家程度の水準的に大したこともない野党の総裁や幹事長では、もはや対処不能なことは容易に想像がつきます。無能なことにおいては野党の首脳も同様で、権力への執着という点において端から首相の足下にも及ばないわけですから、決議の直前までいろいろなことが言われましたが、最初から勝負は決していたわけです。今回、日本人は、これまであまり意識してこなかったぎらぎらと脂ぎったような政治家の「権力への執着」というものを図らずも学ぶ機会を得ました。しかし、政治家の権力への執着というのは、これくらいが世界標準というものです。

昨年の代表選挙、今月2日の不信任決議案否決と、自民党世襲議員などならば心労で病気になりかねない政局を2連勝してきた菅首相の全く日本人的でない凄みというものを、無能な政治家と言って無視することはもはや得策とは言えないのではないかと思えてきました。

と思っていたところ、今日になって、自民党参議院議員を復興担当の政務官を餌に1本釣りして見せ、さらに国民新党代表を首相特別補佐官に就任させるなど、政敵の立場からすれば極めてえげつない手を次々に打ち出してきました。やはり、野党の側にも何ら政権奪回の戦略構想はなかったようです。残念ながら、首相を軸とした不毛な権力闘争が際限なく続いて行きそうな様相を呈してきました。しかし、平気で身内さえもたぶらかす政治屋との戦いを経て、仁義なき戦いの場である国際政治の舞台にも立つことができるタフな政治家がきっと我が国にも育つのであり、菅首相はそのための貴重な練習台として登場したのではないかと敢えて前向きに考えるように努めています。