エウレカ徒然備忘録

時事報道への感想を中心に、ときにアニメDVDを使った英語学習法などを徒然書いています

朝青龍引退を社労士流に読む

先週、25回の優勝を誇る大横綱、大相撲の朝青龍が引退した。実質的には、賛否両論合い半ばするものの、日本相撲協会横綱を解雇したようなものだと思う。相撲協会による解雇の事例は、近年では、露西亜人力士の大麻所持や吸引によるものがあげられる。Wikipediaの記事によれば、露鵬白露山の吸引事件の方は、未だに裁判所でもめているようだ。

さて、朝青龍の引退は、日本相撲協会理事会での事情聴取を受け、自主的に相撲界を去る意思表示をしたものだった。しかし、朝青龍の場合、もしこの横綱日本相撲協会と言う会社の幹部社員だったと仮定すると、解雇されてもやむを得ないことをやっていたと見られても仕方がなかった。社労士流に事件を見ると、そう思えるのだ。

解雇は、使用者と労働者との間の合意で成立している労働契約を使用者側からの一方的な意思表示で解約することで、通常の退職とはその点が異なる。そのため、解雇を行うには、労働基準法や労働契約法により、解雇権の濫用について厳しい制約が課せられている。特に懲戒解雇は、労働者にとって死刑宣告にも擬せられるほどに厳しいものなので、その実施には様々な条件が付く。重要なのは、「就業規則処分の原則」及び「就業規則該当の原則」で、懲戒解雇処分という処分があることが就業規則に書かれていること、どういうことをしでかしたら懲戒解雇になるか就業規則に具体的に書かれていることが必要なのだ。その上で、懲戒解雇に該当する行為と懲戒処分という結果に誰もが納得のいくような相当性がなければならないこと(行為と処分の均衡の原則)、また、日頃から問題行動について必要な注意がなされていたか、本人に弁明の機会が与えられたかなど(処分手続き厳守の原則)といったことが問題になる。

日本相撲協会就業規則に相当する規則があるものとして、懲戒解雇が明示されていたと仮定する。通常懲戒解雇にあたる行為の例示には、「刑法に触れる行為があったこと」とか「刑事事件を犯して有罪判決を受けたこと」などという文言がよく見られる。また、この横綱の場合、これまで様々な問題行動を指摘され、その度に協会から厳重注意の処分を受けてきたのは周知の事実で、いわゆる「譴責処分」や「出勤停止」の「懲戒解雇」より軽い懲戒処分を散々受けてきており、幹部でありながら勤務態度不良社員の典型だったとも言える。懲戒解雇に当たる行為として「譴責、減給及び出勤停止に当たる処分を受けても、なお、改善の見込みがないこと」と言う類の文言もよくある条文だ。

今回の引退劇の直接の引き金になった暴行事件そのものについては、具体的な内容について詳しい内容がほとんど報道されないこと、その後朝青龍の弁護士から示談書が警察に提出されたことなどから、刑法犯罪そのものと断定することはできなくなったが、慎重な相撲協会がここまで腹を据えたと言うことは、詳しく事情を調べれば調べるほど、それに近い材料が出てくるということなのだろう(ここは下衆の勘ぐりの域を出ていないが...)。それに加えて、2番目の事由の方に該当していることは、否定できないところだろう。相撲協会としては、引退勧告に応じなければ、懲戒解雇もやむなしで今回の事件に臨んだのは想像に難くない。こういうのは、法律用語ではないが、一般の社会では諭旨退職とか諭旨解雇と呼ばれるものだ。

何でも米国が国際標準という意見には組しない者だが、MLBも4256本安打を放ったあのPete Roseを野球賭博に関わったとして永久追放し、その罪を許していない。朝青龍の事実上の追放で一時的に相撲の人気が低迷することはあり得るかもしれないが、日本の大相撲を守ると言う戦略的な視点からすれば、今回の相撲協会の決断は正しかったと判断している。