エウレカ徒然備忘録

時事報道への感想を中心に、ときにアニメDVDを使った英語学習法などを徒然書いています

基本的人権の考え方

 日本国憲法の三大原理の一つにもなっている「基本的人権の尊重」ですが、この基本的人権の由来は近代西欧社会に生まれた自然権思想にあるとされています。自然権(“Right of Nature”)は、神から授かっている自然法を根拠に人間が本来有している権利と考えられ、例えば生きていくために動植物を殺生して食用にすること、暴漢や賊に襲われたときに正当防衛で相手を殺してしまうことなどがこの自然権の範疇に属するものとされています。

 ところで、17世紀の英国にThomas Hobbesなる哲学者が現れました。17世紀の英国は、清教徒革命(1942年〜1946年)の勃発にみられるように、無秩序と混乱を極めた時期でもあります。Hobbesはこのような情勢を見て、神もなく、倫理、慣習はもちろん法秩序もない無政府状態で人間は果たしてどのようなものになるか、という思考実験を行いました。そのような無政府状態の中では、人間は自分の命を守るためには、単なる正当防衛などでは全く足りず、生きていくためには何をしてもよいという状況になるはずだとHobbesは考えました。そして、この何をしてもよい状態のことを自然権とHobbesは考えます。そして自然権を持った人間は、誰でも必要とあらば殺してよい、従って誰でもいつでも殺され得る状態であると考え、そしてどんなに弱い人間でも強い人間を殺す権利があるという意味において、自然状態では誰もが平等とみなすことができると考えました。

 それでは、このような地獄絵のような状態を人間はどうやって脱することができるのか、Hobbesの考えた解答は、第1に、皆で同時に各人が持っている自然権を放棄すること、第2に、それだけでは誰かが約束を破るのではないかという不安を解消できないので、主権者を立ててその者に自然権を集めてしまい、仕切ってもらうということ、自然権を集められた主権者はその見返りに、国民の生命、自由、財産を守るということでした。

 従って、Hobbesによれば、国民の生命、自由、財産を守る国家の形成は自然権の放棄と対になった概念です。しかし、後の時代の哲学者John Lockeは、Hobbesの思想をほぼ継承したにもかかわらず、自然権(人権)は神から与えられた権利で、Hobbesの唱えるような「万人の万人に対する闘争」を生み出すようなものではないと考えましたが、それにもかかわらず、主権者との間で社会契約を行うとするHobbes流の社会契約論を主張しています。Lockeの思想において、自然権はHobbesが考えたほど悪いものではなく、神から授かった天賦のものであるので、社会契約に反して不必要に制限された場合などには主権者を攻撃して取り返すことができるものと考えます。