エウレカ徒然備忘録

時事報道への感想を中心に、ときにアニメDVDを使った英語学習法などを徒然書いています

機動戦士ガンダム第08MS小隊−その4−

今週は、米国のVirginia工科大学で銃の乱射事件が起こった翌日、長崎市長暴力団員の男に暗殺され、金曜日には町田で銃を持った暴力団員の立てこもり事件が勃発するなど、銃による事件が続いた特異な週であった。我々にできることは、「新宿鮫」を熟読することぐらいなのだろうか。

さて、今週は「震える山(前編)」。この回は、何と言ってもサハリン家の大番頭格ノリス・パッカードとGoufの話と言っていい。その前に本作品全般について、作品の出来の良さに繋がっている要因を二点。第一は、絵が丁寧で綺麗なこと。これぞ毎週放映という時間制限に追われないで満足の行くまで描きこめるOVA(2月6日「OVAとは何ぞや」参照)の真骨頂である。そして、生々しい地上戦、白兵戦を多く描いたのが特徴と言われる本作品ではあるが、その一方で、宮崎作品のような夢のある綺麗な場面も数多い。初回「二人だけの戦争」で、地球に赴任する途上、シローが宇宙から地球を見て「すげーよ、でっかいよ、きれいだよ、感動するよ、俺なんか」と思わず叫んだ地球。その後サンダースJr.のジムを救うためにBallで出撃し、アイナと戦いまた助け合った宇宙空間、第7話「再会」での遭難したアイナとシローの愛の舞台となったヒマラヤの山中の幻想的な美しさなど、数あるSunrise作品の中でも出色の出来ばえと言っていい。

そして、二番目は、米倉千尋の名曲「嵐の中で輝いて」を始め、挿入歌や挿入曲の出来の良さである。米倉歌う「嵐の中で輝いて」、「Ten years after」、そして「未来の二人に」は、全て女性の立場からのLove Songで、心優しいアイナ・サハリンは、シローに対して戦中、戦後こんな気持ちを抱いていたのかもしれない。

物語は、既に最終局面に入り、シロー等第08小隊の偵察行動によって、遂にZeonのラサ秘密基地をつきとめた連邦軍は、物量に物を言わせた総攻撃を開始する。圧倒的な物量作戦の前に手も足も出ないZeon軍だが、完成を目前に控えたアプサラス?に起死回生を賭けるギニアス。そして、アイナは、傷病兵らをSide3(Zeon)に帰還させるため、基地内で一人奮闘していた。そこに、Goufで戦場から戻ってきたノリスがアイナを見つけ、アイナが強くなったこと、そしてアイナを兄を説き伏せて自分が正しいと思う行いを貫くほどに強くしたのは、恋をしたからであろうというようなことを言う。意外な人に意外なことを言われたと言う顔をするアイナに、「心外ですな。自分とて木の股から生まれてきた訳ではないのです。」と言う名台詞を吐く。「親代わりのノリスのことを私は何も知らない。」と言うアイナの返答に、実の娘のように慈しんできたアイナに親と思われていることを面と向かって言われ、アイナの望みをかなえるために死を覚悟の最後の出撃を決意するノリスは漢であった。

結果的に、親と慕うノリスを出撃させてしまったアイナ。自分の運命を呪ってか、敵への憎悪からか、この時般若のような形相を見せる。この女性は美人なだけにぞっとします。おそらく、サハリン家の血は、ギニアスにしてもアイナにしても感情の量が他人より多く持って生まれてきている感じがします。従って、兄のようにそれが歪んでしまうと、とてつもなく歪んで行ってしまうと言う傾向にあるのかもしれません。また、人間の器が大きいシローがアイナに一目惚れしたのは、そのぞっとするような美しさも然ることながら、彼女の感情の量がシローの大きな器を満たすほどのものだったからとも言えるかもしれません。

戦場に出たノリスは、長距離高射砲を装備したGuntank3機を守っていた08小隊と交戦。傷病兵等を輸送するケルゲレンを地上から打ち落とす能力を有するGuntankを潰すために鬼神の如き強さを見せつける。シローのEz8さえ一度は彼のGoufの手に捕えられ、死を覚悟するシローであったが、アイナと再会して以来自らの戦う意味を見失って迷いを生じていたシローは、起動しない操縦席の中、ただ生きたい、生きてアイナと添い遂げたいと言う自分の真実の気持ちを探り当てる。彼の「気」が復活するのを待っていたかのようにEz8は再起動し、打撃を受けて使えなくなった左腕を自ら引きちぎって、これを武器にするという滅茶苦茶な攻撃を始める。この時狂ったように発した「俺は、生きてアイナと添い遂げる」と言う絶叫がノリスにも聞こえ、初めてこの男こそアイナの想い人であったことを知る。その衝撃で、一瞬気が緩んだノリスのGoufにシローが一撃を加え、Goufは一旦退く。「隊長が切れた。」とミケル、「悩むの止めた馬鹿はほんと強いもんだ。」とカレン。

このノリス・パッカードのGoufとシローのEz8の死闘が今回の見せ場の一つなのは間違いないが、一体Mobile Suitの操縦士同士の交信と言うのはどうなっていると言う設定なのだろうか。もちろん味方同士の場合、無線を使ったり、無線を使えない敵陣などでは、思念によるものがあるようだが、New Typeではないシローとノリスが何でこんなに簡単に交戦中に意思疎通ができてしまうのだろう。ノリスが最期に敵の操縦士アマダ・シローこそがアイナの恋人であると知って戦うことが展開上必要だったことは認めるが、論理的に説明がなされないと、単なるご都合主義に陥ってしまう。

ノリスは最期の力を振り絞って3機目のGuntankを仕留めるが、その際、シローに胴体をBeam Sabelで真っ二つにされて、息絶える。この時シローに対して直接攻撃を仕掛けず、敢えてGuntankを狙ったのは、本来の目的であると同時に、アイナのためにシローを殺すことを回避した行為だったのかもしれない。シロー自身も自ら負けを認め、ノリスに対して敬礼して敬意を表している。