エウレカ徒然備忘録

時事報道への感想を中心に、ときにアニメDVDを使った英語学習法などを徒然書いています

君に届け

間もなく実写版の映画公開予定で、椎名軽穂の少女漫画が原作の君に届けのAnime版全25話を一気に見てしまいました。昨年秋から今年初めにかけて深夜時間帯で放送され、人気を集めたIGの作品とのことです。

IGと言えば「攻殻機動隊」、「攻殻機動隊」と言えばIGのAnime制作会社の作品で、IGには「Blood+」のような失敗作はあるものの、このAnimeは良作です。ただ、女性向けAnime臭さが濃厚なメルヘンチックな画面の多用及び独特の粗い水彩画のような背景の描き方にはちょっと違和感を感じました。個人的には、リアリズムを追求することはしないのですが、あまり外しすぎるのも好きではないようです。やはり、Robot Anime標準位のリアリズムが小生にとって一番心地好い線のようです。

ところで、個人的な印象ですが、ここ数年のAnimeに見られるのは、徹底して人間の清い心、美しいところに焦点を当てていく作品(癒し系?)と徹底的に汚いところをこれでもかこれでもかと見せてくれる作品との二極化傾向のようです。後者については、強烈な暴力Animeなどが目につきます。暴力Animeとは異なりますが、今年ちらりと見たRobot Anime「ぼくらの」の人の描き方は、正直なところ性に合わないというのが実感で、最初の数話で視聴を中断してしまいました。Robot Animeの視聴を途中で止めたのはここ数年では初めてのことです。

ちょっと脱線しました。本Animeに関して言えば、圧倒的に前者の方で、基本的には「やさしさ、爽やかさ、明るさ、正直さ」といった人という存在の美しさ、清らかさを徹底的に謳った作品と言えるのではないかと思います。主人公黒沼爽子は、北幌高校に入学した決して不細工ではないのですが、陰気な容姿のために他人から遠ざけられ、いわゆるイジメの対象になりそうな女子高生で、現に怪奇映画リングの連想から「貞子」とあだ名をつけられてしまいます。しかし、座右の銘は「一日一善」、「他人の役に立つことができれば自分もうれしい」と思える性格で、クラスメイトが嫌がる地味な仕事進んで引き受ける健気な女性として描かれています

その爽子が、「100%爽やか、爽やかさからできているような人」と感じ、自分にも分け隔てなく接してくれる風早翔太と出会い、自分も風早のようになりたいという気持ちを抱きます。他人の役に立ちたい、翔太のように他人との間にある壁を崩していきたいという爽子の前向きな生き方は、次第に皆の誤解を解き、ここからはお決まりのようですが、翔太への「尊敬と憧憬」の気持ちはやがて「恋愛感情」へと変わっていくといった典型的な「学園もの」、"A boy meets a girl story"いや"A girl meets a boy story"となり、形として2人の初デートとなった初詣で第1季は最終回を迎えています。

文章にすると、よくある学園ものに過ぎない感じの紹介になってしまいます。しかし、原作漫画が良く練れているのか、見始めると爽子の生き方、そして登場人物の多くが本質的に人としてのやさしさ、爽やかさ、明るさ、正直さを持って生きていく様子に感動の涙が止まりません(特に爽子の健気さが際立つ序盤)。人間とはこんなにも美しいものだということが繰り返し繰り返し徹底的に描かれます。おそらく風早翔太という存在は、特定の人間ではなく、様々な面を持つ複雑な人間存在の良い側面だけを集めた象徴のようなものです。そう考えるのは、翔太には濁った側面がなさ過ぎてあまりにリアリズムに欠けるからです。その存在は、爽子のような思い、そしてその生き方が、他人に影響を及ぼし、他人が結果的にどのような存在になってくるのかを端的に表現していて、それはまた翻って爽子に対して積極的な影響を及ぼすことになります。人間には、そもそも美しい側面もあれば、醜い側面もあります。現に、爽子の親友になる矢野と吉田も、矢野は爽子に対して母性のような優しさを示すのに対して、爽子を陥れようとした少女に対しては謀略と意地の悪さをもって接し、吉田は爽子に対しては持ち前の情の深さが出るのに対して、爽子の敵に対しては暴力的な側面を前面に出して脅しています。

もう一つ、この作品の出来栄えを押し上げているのが、優れた声優陣だと思われます。特に主人公黒沼爽子を演ずる能登麻美子さんはさすがです。一度聴いたら忘れられない独特のWhisper Voiceには、爽子の思いが込められているように感じました。なんでこんなに感動するんだろうと振り返ったとき、能登さんの上手さは際立ちます。翔太役浪川大輔さんも上手いですし、吉田千鶴役は、EurekasevenのRentonをやった三瓶さんです。ちなみに爽子の恋敵胡桃沢は、ハルヒ平野綾さんだったのには迂闊にも気が付きませんでした。

Animeから少し話が逸れますが、あまりに醜いものを露悪趣味のように茶の間に平気で持ち出すのはいかがなものかという思いをこの頃は時折抱くようになりました。例えば、麻薬の押尾学事件のような「犬の糞」を裁判員裁判のような形で公開し、その動向の詳細をTVで全国に垂れ流すのは正しい報道姿勢と言えるのだろうかという疑問です。「犬の糞」はあくまでも犬の糞であって、それを拡大してみたり、嗅いで見たり、挙句の果てになめてみることに一体どういう意味があるのか、こういうことを逐一伝えることはむしろ害の方が多く、社会に何の恩恵ももたらさないように思います。

そういう意味では、「君に届け」のような作品が成功することは喜ばしいことです。ただ、Anime及び漫画の実写化で成功した例は、寡聞にしてあまり存じ上げません。一見平凡な学園ものに見える本作品にしても、Animeが採っているような象徴的な表現方法はなかなか採りずらいでしょうし、主人公に合わせて能登さんのような最高の声優を起用することもできません。実写版が漫画やAnime版のように支持されるかどうか、興味深いところではあります。